展示を開くことになったらまず必要性を感じるのがダイレクトメールではないでしょうか。今回はDMの意味、作る前に考えるべきこと、実際の製作方法までを確認していきたいと思います。
前提として
方法1:お店に頼む
今回は自分で作ることに焦点をあてていますが、DMを製作している会社や印刷会社などに直接オーダーすることも出来ます。ただしその際もどういった物を作りたい、という希望や使用する素材は必要になるため丸投げという訳にもなかなかいきません。
方法2:自分で作る
今回はこの方法を掘り下げさげて説明します。途中で大変そうになった場合でも検討した内容は無駄にはなりません。前述の通り、誰かにお願いする場合でも自分のDMへのイメージ」は必要だからです。なお、データ作成はphotoshop(フォトショップ)でも可能ですが、印刷物を作成するのにより適しているのはillustrator(イラストレーター)です。
方法3:知人に頼む
お知り合いのデザイナーやアドビのソフトが得意な方へお願いするのもひとつの方法です。その場合も出来るだけギャラリーへの確認を仰いでください。内容の確認や校正は複数の方向からした方が間違いは少なくなります。
1:DMの内容を詳細に決める
a:展示名(タイトル)を考える
まずはPCに向かう前に紙とペンなどで検討するのがお勧めです。展示内容を考えるのと平行して手札判のプリントなどをみながらゆっくりと展示会場を想像します。そして、作品を纏めるようなタイトルを考えていきましょう。出来たらゆっくりと時間をかけたいところです。
b:キャッチフレーズや説明文を決める
タイトル(展示名)が決まったら次はそれを説明する文章を考えます。1フレーズでもいいですし、複数のセンテンスの文章でも構いません。DMに載せられるスペースは限られているので端的に。タイトルからは読み取れない経歴やPRとなる文章でも構いません。
c:日程(開催時間)などテキスト関係をまとめる
ぼんやりした空間のイメージや展示名が決まったら、次に「必ず記載しなければならない情報」をテキストでまとめます。日程・曜日・定休日・開館時間・イベントの有無・プロフィールの有無・ギャラリー名称住所・アクセス・マップの有無・・・など様々な必須事項をまとめることでDM上に必要なスペースが見えてきます。
2:DMのイメージを決める
a:どんな人が手に取るだろう
どういった人が手にとってくれて、どういった人が友人に紹介して・・・と仮装の来場者、つまりペルソナを想像してみます。登山家は山好きが、植物の展示には専門家が、あるいは笑顔の展示はファミリーに向いているかもしれません。おのずとDMのイメージの方向性が見えてきます。
b:展示と合致する印象を考える(綺麗?華やか?鮮やか?)
DMは展示内容のイメージを形作る大切な第一印象になります。アンダーグラウンドな写真展をホワイトに描く訳でもなければ、雑踏の写真はポップな方がイメージにしっくりきます。少しずつイメージを想像していきます。この頃に、他の展示のDMなどを少し参考にしてみるのも良いかもしれません。
c:メインビジュアルの候補を選定
メインビジュアルは皆さん、ベストカットを選ぶことが多くあります。もちろんそれでも大丈夫ですが、私は第一印象を与える場としてDMには足を運びたくなるようなビジュアルをお勧めしています。明るいもの、色があるものなどの方が目に留まり、来たくなる傾向があります。
d:イラストなど素材の有無を検討
初期の構想段階でひとつ考えたい要素が写真以外の素材の有無です。例えば数字などを手書きのイラストにしたい、あるいはシックなタイトルを書家に頼みたい、など人の手を借りる場合には、先方の制作時間を考慮して早い段階でお願いをする必要があります。
3:DMのサイズを決める
a:葉書サイズ(100×148)
一般的なポストカードのサイズは(100 x148mm)というサイズです。印刷所に直接発注する場合は表面と裏面が必要なため、制作データはA4程度のデータにレイアウトを行うことになります。一般的な印刷のためのデータは「印刷部分はこのサイズです」ということを表したトンボ(トリムマーク)と呼ばれるサイズ指定のガイドを作って行います。
→こちらからイラストレーターの一般的なDM印刷用のレイアウトデータを配布いたしますのでご活用ください。
b:定型より大型
100×148ミリよりも大きなサイズは郵便で言えば、封筒に入るまでのサイズで84円の郵便物か、それ以上は定形外となります。郵送する部数にもよりますが、大きくすればするほど送料も印刷代もかさむため、製作段階から検討を着ける必要があります。また厚くなることでも重くなるため送料は上がることがあります。一般的に大きなサイズが有効となるのはメインビジュアルを2点使いたいから横長にする(100x200mm)、であったり、正方形の写真を大きく見せたいから正方形にする(148x148mm)などが考えられます。サイズがA5の正寸(148x210mm)よりも大きくなる場合は、一般的にはポストカードというよりはフライヤー(チラシ)となるため用途が異なってきます。※稀に大きいサイズのDMを作るケースが有効な時もあり、その際は、フライヤーではなくA4カードなどと定形外郵便物を表す「カード」という呼び名を使ったりします。
c:定型より小型
小型の利点は特にありません。第一印象で、凝っているなぁと少し思われるくらいです。送料もポストカードと変わりませんし、特別目立つようになる訳でもありません。何より致命的なことは写真が小さくなり、入れられる情報が少なくなってしまうことです。例えばポラロイドの正寸(108x88mm)でどうしても作りたい、などの特別な希望がなければ避けたほうが無難です。
4:DMの要素の配置(レイアウト)を決める
こちらはレイアウトの一例ですが、どちらも間違いではありません。また特別正解もありません。このあたりは好みも関係しますが、大きく影響してくる要素としてはメインビジュアルとなる写真の絵柄があります。例えば元から白トビや黒ツブレが多い写真であればそのまま文字を置いても活きてくる可能性もあるなど、写真の配置ひとつで様々な選択肢が広がります。
a:写真を全面に敷く(図:左上)
写真が全体に敷いてある場合、前述のように絵柄に単調な部分があれば文字を載せることが出来ます。文字を入れるのに抵抗があってできる限り写真を大きく見せたい、という希望の方は実はこの全面に写真を敷いて裏面に情報を集約しよう、と思うかもしれませんが、それはお勧めしません。そもそもDMではなく絵はがきだと思われていますリスクがあります。全面に写真を敷く場合は、写真の上に情報を載せることを前提にして考えた方が無難です。
b:写真を部分的に使い空白を設ける(図:右上や左下)
写真のサイズを少し小さくすることで空白を設けました。デザインをする上でこうした空白は「ホワイトスペース」と呼ばれ、美しさや品位を表現する上で欠かせないデザインの1要素とされています。ホワイトスペースを上手く使うこと、即ちデザインにおける間の取り方に他なりません。さらに少しだけ文字を写真にかけたり、文字を上下などに配分することで写真そのものも美しく見せられる可能性を秘めた最もお勧めしたレイアウトになります。
c:写真よりもホワイトスペースが多い(図:右上や左下)
写真を小さくしてホワイトスペースを多めにとる手法もあります。この場合は写真が小さくなるので「写真が持つ本来の力」は基本的に小さくなります。その反面、情報に避けるスペースは大きくなるのでタイトルのテキストをデザインフォントにしたり、ちょっとしたイラストをスパイス的に使うなどの方法も考えられます。またメインビジュアルはどうしても縦写真だけど横のレイアウト好きという要望がある方などは必然的にこのレイアウトに行き着くことも少なくありません。
4+:続DMの要素の配置(レイアウト)を決める
今回はb:写真を部分的に使い空白を設けるという方法でとても簡単にひとつ具体例を作成してみました。この猫の写真展の場合は、「カタチ」というタイトルから図形的な面白さを使おう、と閃いたとします。見ているとメインビジュアルに使えそうな一枚の写真が横に規則正しい3分割となっているのに気づいたので、空白から情報を「展示名・作家名・日程」と分けてレイアウトを行いました。こうすることで写真自体の図形的な面白さを、DMの持つデザイン性が上品に加点してくれているように思えます。正解は色々ありますが、スペースを活用した間の取り方を、使用する写真から引き出していってみてはいかがでしょうか。
5:DMのイメージを具体化する
a:展示名や作家名などのロゴ化
レイアウトの要素配列が完了したら、その情報を美しく飾っていく段階になります。ですが、あくまでビジュアルのメインは情報ではなく作品です。そのため過度なデザイン要素を情報に付加するのはあまりお勧めしません。フォントを工夫したり、行間や字詰めといった文字の持つ美しさを最大限に引き出すようなことで仕上げて行くことをお勧めいたします。
b:写真の配置
配置について調整を行うとしたら「デザインとして堂々としていること」を心がけています。少しずれてしまっていたというケース、例えば真ん中に置いたつもりがたった1mm左にずれた、というのは意図ではなくミスです。細かい部分にまで気配りをしていくことで完成度をより高めていくことが出来ると思っています。
c:情報の配置
情報の配置は文字の美しさを引き出すこと、と書きました。しかし、実はDMにとって最も大事なことは「分かりやすいこと」です。フォントを小さくした方が美しいから、イタリック(斜体)がクールだった、細いフォントが流麗に見えた・・・こういったデザイン的な要素は全て、同時に読みやすさを削っているのだということを覚えていてください。ギャラリーの住所を読むのに目を細めなければいけないようではデザインの前にDMとしての意味をなしません。若手のデザイナーが陥りやすいミスの1つです。
6:レイアウトにあたってのテクニック
レイアウトする上でのテクニックはウェブや世の中に溢れています。しかし有益な情報をその中から見つけて物にするのは容易ではありません。まずはこの記事で書いた前半部分に立ち返ってもう一度考えてみてください。一読された後の考えから、次は具体的なアイデアが生まれていくような読み方が出来るかもしれません。その後に、さらにどこからかアイデアを得ようとするなら他の展示のDMを参考程度に見てみるのも手かもしれません。例えばその一例を下記に掲載させて頂きました。なお当たり前ですが、まるっと真似をするのは止めておきましょう。本人は気づかれていないように思えても、周りの者、とくにデザインを志すものからは、この人の経験からはこのデザインは生まれない。と分かるものです。※特に制作者の許可は得ていませんが、DMとして一般的に配布されているものなので問題はないと認識しています。
a:図案を全面に敷く
b:図案を部分的に使い空白を設ける
c:図案よりもホワイトスペースが多い
7:最後に
こうしてDMを作るためのエッセンスを書いてきました。今まで100枚以上のDMを作成してきましたが、やはり10年前に制作したものをみるとまだまだだったなぁと思います。あの頃は逆に今よりもずっと時間をかけてレイアウトしたのに、赤字を指摘したくなるような点も多々あります。やはり回数や考えを重ねることで段々と良くなっていくもの、また価値観も変わるもの、まずは現在できうる最高のものを作ることに専念できればそれほど楽しいことはありません。そうした中で、アドバイスを仰ぎたいという作家さんも当ギャラリーでは歓迎いたしております。