第四回公募世界旅写真展 審査総評
審査日|2018年12月22日(土) 14:00〜審査工程|一次〜二次〜三次最終選考
入選者数|10名
〈審査総評〉
2018年 第四回世界旅写真展 審査員
野町和嘉(以下N)/ 中村風詩人(以下K)
審査を終えて
K|こうして並んだところを見ると、テーマを持って作品制作に取り組んでいる人が残った印象を受けます。
N|そうそう。私たちが展示をすることを見据えて選んだというのもありますよね。
K|この作品、実は本日会場に入った瞬間に、きっと入選だと思ったのです。全てが美しいと思いました。
N|それは私も美しいと感じましたね。
K|いつも世界旅写真展の審査でテーマにしているのが「ずっと飾っておきたくなる写真かどうか」ということなのです。まさにそれを体現している。
N|うん、いいですね。ちょっとしたことだけど、プリントの仕方でも大分印象が変わりますよね。やっぱりキューバで撮られたこの写真なんかは視点も含めてしっかりしているし(先程の青い写真を指さしながら)。
K|その青い写真、私もとても好きな一枚です。
N|この写真はある種の“証明”っていう意味では良いよね。撮影者の影を入れて撮ることが証明になっている。
K|そうですね。これは審査員が野町先生だから送られてきたのかなとも思いました。この方は展示したら美しくまとまりそうです。
N|この写真はしっかりとメキシコらしさが写っているよね。ただ、ちゃんと人々の中に入って撮ってるけれど、これだけだとちょっと弱い。
K|はい。少し惜しい感じもしました。
K|野町先生がこちらを選ばれたのは意外でした!
N|ここまでのスケールの写真はなかなか撮れない。
K|確かにこれは大変だと思います。現地だから感じられる生物の躍動感が写真に息づいています。
K|これは2、3枚いいんですけど、少しムラがある印象ですね。
N|そうだね。でもちゃんと人の暮らしの中に踏み込んでいていいよね。
K|はい。旅行や観光とは一線を画したもの、現地の方々の生き生きとした姿は撮影者に心を許しているからこそ、という風に見えました。
N|これもいいよね。特にこの窓の写真なんかはいい。テーマもしっかりしてる。
K|私もいいなと思いました。いつ見ても良いと思える作品ですよね。
N|個展をするのは何人って決めているんですか。
K|実は何人がするとは決めていないのです。個展開催を少なくとも一人はお願いしたいのですが、中には入選していても個展としての完成度が成り立つかどうか考えてしまうケースもあります。
N|それを知るためにも後日にまとまった枚数でもう少し見せてもらうしかないよね。そうすれば展示として面白いものになるかも分かるし。
K|はい。写真を見ていて伝わるもの・・・その作品のテーマしかり、作家の世界観しかりです。
N|これもいいね
K|まなざしがテーマなのかなと思いました。
N|数枚詰めきれていない感じなんだよなぁ。
K|そうですね、少し勿体無い印象は受けますが、それ以上にとても光と影が美しいものがあるのが印象的でした。
K|これもまた生と死が垣間見える感じで統一感があって、世界観がきちんと表現されているなと思いました。一枚一枚が美しいですね。(中央下の青い写真)
N|そうですね。
K|何枚かはハッとさせられましたね。
N|うん、いいと思います。
N|この1点はすごくいいんだけどなぁ
K|少しムラがありますよね。この方向性でシリーズがあるならいいのですが
N|そうですね。もう少し見てみないとわからないなぁ。
K|これはテーマがはっきりされていますよね。
K|なかなか皆さんが見ない視点だからいいと思いました。写真があるから視点が向くというか。
N|うん、これは面白いよね。
K|写真見るだけでテーマがわかるのもいいなぁと思いました。たぶんもっと撮ってると思います。
N|これは連作としてちゃんと撮れてるよね。
N|これなんかはもう少し撮ってると思うんだけどなぁ
K|そうですね、この写真だけだとお祭りにコミットしきれていない感じがします。1日2日で撮ったのかなぁという印象がもったいないですよね
K|今回の審査で作品をご覧になられて、全体的にいかがでしたか?
N|「旅写真」という幅が大きいですからね。ただここで選ばれた10人の作品は、“見せる写真”になっていますよね。一次審査で落ちてしまった中には、「ただ旅の写真を集めました」というものも結構ありました。写真の楽しみ方はいろいろあると思いますが、「展示する・見せる」前提で送ってきている以上は、なにを見せたいのか、なにに感動したのかなどが伝わってこないと成立しない。だからある程度テーマ性は必要ですよね。
K|それを写真で伝える、というのが難しいことですね。私も振り返ると今回は、今までの世界旅写真展の審査に比べて、ファイナリスト10人の作品が全体から突出していたという印象でした。テーマがはっきりしている人はわかりやすく見えてきました。
N|そういう意味ではこの写真は狙いが見えていますよね。
K|はい、とてもはっきり伝わってきました。
N|この写真は中国なんだね、ヨーロッパのように見えた。
K|どこで撮るか、というのも作家は日々悩むところだと思います。世界地図に未開の地がなくなってしまったこの情報過多の時代だからこそ・・・。
N|今はアラビアでもアフリカでも、旅行客も現地の人たちもスマホで撮っているからね。
K|以前は「こんな所あるんだ!」と思ってもらえるような美しい景色を撮って見せるだけで写真の「伝える」という意味があったと思います。
N|そうだね。すぐ検索すればいくらでもでてくるからね。
K|今では写真の意味が「情報」から「メッセージ」に変わってきている気がします。その人だけがその旅の中で見た景色、感じたコト・・・。
K|それと今回の審査で感じたのは、10枚の中でも3枚くらいはいいけれど、他の6〜7枚が良くないから落ちてしまったというのが結構あってもったいない印象でしたね。
N|そうなんだよね。それは他の審査でもよくある。つまるところ、作者自身が「どれだけ客観的にみられるか」だと思いますよ。繰り返し、繰り返し、自分の作品を見ることが大切。
K|はい、「見せたい」という自分の気持ちだけだと一直線になってしまう感じはあると思います。
N|まぁでも何度かキャッチボールを繰り返せばよくなっていく感じはありますよね。気になる人にはもう少し写真を見せてもらったり、アドバイスしたり。
K|おっしゃるとおりですね。BEHIND THE GALLERYがそういう場所になればいいなと思っています。
N|そういう場所はなかなか無いですからね。良い活動だと思いますよ。
K|ありがとうございます。励みになります。
N|展示も楽しみにしています。
K|本日は長時間ありがとうございました。
【審査員プロフィール】
■野町和嘉|KAZUYOSHI NOMACHI
高知県立高知工業高等学校卒業後、写真家・杵島隆に師事。1971年よりフリーの写真家となる。1972年よりサハラ砂漠をはじめとした乾燥地帯の撮影を行う。1980年代後半より中近東・アジア、2002年以降はアンデスを主な撮影地域としている。1990年、写真集「ナイル」等により芸術選奨新人賞美術部門受賞。2009年、紫綬褒章受章。
■中村風詩人|KAZASHITO NAKAMURA
世界一周、南太平洋諸国一周、東南アジア一周、オセアニア一周、欧州一周、などを旅して2018年現在80カ国以上を撮影。代表作に世界3周分の海の風景をおさめた写真集『ONE OCEAN』出版。海の風景は広島県の切手にも採用。2018年4月に著書『小笠原のすべて』(JTBパブリッシング)を上梓。同出版記念公演は300人を動員、展示は銀座・名古屋・大阪キヤノンギャラリーから宇都宮東武百貨店・高崎高島屋・水戸京成百貨店・仙台メディアテークなど全国を巡回。2018年11月に7年に渡り撮影を続けた椅子のフォトブック『本能のデザイン』(実業之日本社刊)を上梓。