今回の巡回展のタイトル、『ON THE PAPER』という言葉に込められた想いをお聞かせください。
田中 このタイトルが浮かんだのは、展示に向け過去の写真を見返したことがきっかけでした。今回の写真は10年前に撮った写真です。プリントをし、大きく引き伸ばされ見えてきたヴェネチアの豊かな色彩や細部に改めて感動をしたと同時に、現在の自分がプリントをすることも、見ることも減ってしまったことや、写真自体の環境が変わり、スマホなどの小さな液晶で見ることが多くなった、写真を見るという現状に興味が向きました。
プリントを見るということが、随分特別なものになったという思いがあり今回『ON THE PAPER』というタイトルにさせてもらいました。
── 田中さんにとって“自分の目で見ることの意味”とは何ですか?
田中 実際に生で見る、体感するということが重要だと思っています。
写真を撮るという行為ももちろんですが、実際に展示やプリントと向き合い、見るということが自分の目で見るという重要な体験だと思っています。
── 「小さな液晶ではなく、“自分の目で見ることへの問い”を可視化する」とありますが、展示の見せ方として特にこだわった点をお聞かせください。
田中 現在はスマホなどで写真を見ることが多く、それらの大半は他者が撮った写真です。しかし、誰が撮ったものなのかなどを気にすることもなく無意識に見ています。そうした見方も表現しつつ、改めて自分の目で見るという体感をしていただきたいなと思いました。
神楽坂では、入り口にスマホの液晶を埋め込んだパネルを貼りました。液晶では、展示している写真を私の目で(見ている人にとっては他者の目)切り取られた写真をスライドショーで流しました。そうした液晶で写真を見るということを意識してもらった上で、額装をした写真を見ていただきました。
福岡では、額装された写真の横にスマホサイズのプリントを展示しました。対比して見ることで、より自分の目で見ることと、他者の目で見ることを意識してもらえればと思いました。その他、壁をスクラップブックに見立てて、個人的な思い出や気になった写真をランダムに貼った壁や、大きなマットをくり抜き、水上バスの写真のみを展示した壁など、写真を体感してもらう試みも行ないました。
── 子供の頃に憧れていた本の中のヴェネチア。大人になってから訪れたヴェネチアはどのように映りましたか?
田中 実際に訪れた時は、情報や知識もありましたし、子供の頃の想いとは随分違っていたと思います。当時、住んでいた東京を撮っていた時期でもあり、何か共通点を探すような視点で撮影していたことを覚えています。だから必然的にヴェネチアの日常を写した写真が多いのだと思います。観光化され趣がなくなってしまったものも見たりもしましたが、何気ないものが美しかったり、人々が優しく明るかったり、様々な変化を受け入れつつも変わらない日常がある魅力的な街でした。
── ビハインドザギャラリー神楽坂での展示はいかがでしたでしょうか。
田中 全てとても勉強になりました。特に設営の時の計算法などは教えていただいたおかげで巡回展の時も大変役に立ちました。空間的にもとても展示しやすかったです。
トークに関しては、素直な気持ちは話せましたが、もっと勉強が必要だなと痛感しています。
巡回展:福岡市美術館
── 福岡市美術館での巡回展を終えて、何か心境の変化はありましたか?
田中 実際に自分の目で見るということ(撮影に行くこと)をもっと意欲的にやっていこうと思っています。スマホで自由自在に写真を見ることは便利ですが、実際に自分の目で見ることとは全く別のものだと思います。インスタなどで見るたくさんの人が共感する写真よりも、自分が見たものを信じたいと思っています。
── これから撮影していきたいテーマ(興味があるテーマや土地)などを教えてください。
田中 旅は、できるだけ事前に情報を入れずに行き、見たものを感じて撮りたいです。
今住んでいるところは、これまで撮ってきた都市とは違います。自分なりのアプローチを考えていきたいです。
また、今回のように過去の作品を見直すことも大切なことだなと感じています。
── 今回はギャラリーでの素晴らしい展示をありがとうございました。