展示設計をするにあたってかならず考える必要があること。
ここでは「ライティング」について考えています。
ライト設計の大切さ
ライティングによって作品の見え方は変わります。しかし驚くことはギャラリーで見ていると、写真を壁に掛け、展示設営を終え、ライトの向きを変えずにそのまま帰ろうとする作家さんがいることです。照明効果という誰もが知る効果があり、それは作品の価値をあげてくれる大事な空間効果のひとつです。
展示のライト設計こそが作品にとっての最後の光になる
写真は光の芸術言われますが、この展示ライティングが最後の光の効果ではないでしょうか。考えれば展示に至るまで光と密接に関わってきました。撮影の時に明るさを考えて調節しました。フィルムなら増減感の現像で、PCなら画面内で明るさをそれぞれ考えたと思います。そしてプリント作品とにらめっこして、その室内の明るさ、そして色を整えて見るようにしました。ここまで追求した「光」について、最後のギャラリーで作品を見せる際に、ライティングは無関係ではありません。
ライティング・照明の効果
- 明るさ
- 色(演色性)
- 作品へのグラデーション
- 熱・焼け
- フレームの影
- 見る人の影
- 反射・映り込み
- ・・・
ライティング設計の決まり事
ライトの作り方
作品を明るくするライトの作り方と言っても出来ることは2つしかありません。ライトを付ける位置と当てる角度です。もちろん場所によってはLEDかタングステンかを選べたり、LEDで色温度や調光ができたり、あるいは灯数を際限なく増やしたり、ライトカッターといって作品だけに四角形に光をあたるようにしたり・・・と様々な調整は可能です。が、それでも根本的な「設置位置と角度」が最も基本的な調整項目であることは変わりません。
作品との距離を考える
ライトの明るさ(照度)は、距離の二乗に比例して落ちていきます。これは簡単にいうと、ライトは少し遠ざけるだけで思ったよりも一気に暗くなる、という性質を持っています。ライトの明るさに芯がでるような効果を望みたいなら、まずは近くから当てるようにしなければなりません。ですが、もう一方でライトは熱を持つ性質を考慮する必要があります。明るくするために近い距離にライトを設置すると、思ったよりも熱が作品に伝わってしまいます。以前の印画紙であれば退色の原因になります。また最も気をつけなければならないのはアクリルの膨張作用です。額縁に多く入っているアクリル板は熱で多少膨張する性質があります。(※アクリルも2種類あり、キャストタイプは比較的膨張がゆるやかです)。アクリルが膨張すると最悪の場合、額縁の枠の4隅を割ってしまうケースもあります。これは目に見えないほどの速度でゆっくりと膨張していくため、展示期間が長い場合はライトの距離を、膨張させない程度離すことも注意しましょう。
作品との角度を考える
ライトの角度は作品に対して30度くらい上から当てるのが最も効果的と考えています。注意すべきは遠くから当ててしまうことで見に来た人の影が作品に落ちることは避けなければいけません。まずは作品の20-45度程度の角度でベストなポジションを探し、さらに自分が来場者の位置に立つことで影が落ちないかを確認して角度を決定しましょう。
作品に作品が映り込むことを考慮する
最後に考えるべきは作品のアクリル面に、対面する作品や風景が映り込むことです。この対面の風景の映り込みは避けようにも回避の方法は限られています。最も有効な手は反射するアクリルを無反射アクリル、または低反射アクリルに変更することです。しかし、一般的なアクリルの4倍、5倍もするほど高価なもので、美術館クラスでなければこの選択肢は候補にあがらないことが多いです。そのため最後は、来場者の視点から反射を考慮して微調整を重ねることになります。その際に調光が出来るライトであれば、作品自体が黒い被写体や暗いものなどアンダーの作品にあたるライトは気持ち明るくしてあげると映り込みの調整も可能です。
展示のライト設計こそが作品にとっての最後の光になる
照明が作品に与える影響は計り知れません。白い壁面でタングステンスポットの一灯だけを入れると壁がオレンジ色になります。その上に作品をおけばモノクロの写真でも暖色の白黒になります。一般的に照明は自然光に近いほど良質、色味(演色性)が強くなるほど粗悪と言われます。写真展示の場合でもこの考えが単純に正しい訳でもありません。
BTGはやや暖か味のあるスポットを落としています。それには多少の自然光が地明かりになって強く落ちすぎないこと、作品が引き立ちグラデーションの効果が見る人を引き込ませること。そういった理由からライティングレールの設置角度はフレームや見る人の影を作らない最も自然な角度を追求しました。
ライティング・照明の種類
- タングステン照明:赤味/スポット光
- 白熱灯:青味/拡散光
- 蛍光灯:青味・緑味/拡散光
- LED:色味調整/スポット・拡散
- HID:青味・スポット
- ライトカッター:照明色/超スポット
- ハロゲン・クリプトン・・・
自然の光で作品を見せるのは綺麗ですが多く取り入れられていません。それは見る時間や角度によってあまりに作品が違ってみえてしまうからではないでしょうか。撮影でもスタジオが使われるのはどんな状況下でも一律に撮れる、ということが少なからず影響しています。
作品がひきたつ為に照明選びは大切ですが、実は照明を作家が用意する、ということはまずありません。ギャラリーに完備されているものを使うことしかできません。しかし、照明の角度やオン&オフ、灯数、調光など、限られた設備としてあるライトを調節してしあげるのは作家の役目です。その際には先程の照明効果について考えながら、どうすれば映り込みなく見られるか、例えば対角の壁の同位置には同じサイズの作品があると映り込みやすい、あるいは照明が遠すぎるとみている人の影が作品に落ちて見ていて気持ち悪い効果がでる。では斜めから照らしたらどうか、あるいは自然光の入る昼と夜でライティングを変えてみるのも手かも知れません。色々と考えなければいけないことは多くあります。あるいはギャラリー選びの段階で、選ぶ際に照明をみてみるのはひとつ重要かもしれません。

The light itself can be one art of works.
ある意味で自然光が常に一番
問いかければカメラメーカーが「カメラが目指しているのは人間の目」と言い、照明メーカーは「ライトが目指しているのは太陽の光」と答える。それくらいに自然のもつ光というのは偉大です。
曇りの日に撮影をしていると、晴れ間が覗いて柔らかい光が射した瞬間ほど美しい光はありません。自宅に写真を飾ると、ふと見た時に見え方が変わっていてそこから太陽のうつろいを感じます。撮影をしていても写真を壁にかけても、同様に自然光ほど素晴らしいものはないなぁといつもそう考えています。