第5回公募世界旅写真展 審査総評
審査日|2018年12月19日(木) 10:30〜審査工程|一次〜二次〜三次最終選考
〈審査総評〉
2019年 第5回世界旅写真展 審査員
水越武(以下M)/ 中村風詩人(以下K)
審査を終えて
K|こうして見ていくと、何名かアザーも見たいなと思いますね。実際に展示になるとここにあるものだけで組むというわけでもなく、もっと他にも作品ありますか?と聞いたりしています。最終的にはそういうポテンシャルまで見ながら選んでいます。
M|私はどうしても自分の専門分野の写真を見る目は辛くなって、厳しい面を作品に求めてしまいますね。私は人間を一切撮らないですが、ある面でそういう社会派の写真はもちろん必要です。今後もし生ま変わったとしても、まぁカメラマンという仕事はたぶん選ばないと思いますけど(笑)それでもまたカメラマンになったとしたら、社会派のテーマを選んで撮ってみたいという気持ちはありますね。”旅写真”っていうジャンルもなかなか面白いですよね。
K|はい。写真家です、カメラマンですって言うと全部一括りに見られがちですけど、風景写真家とスタジオカメラマンって全く違う職業だと僕は思うんですよね。医者でいうと内科と外科くらい違うイメージがあります。
M|文章なんかでもそうですよね。色々なところで求められるニーズによって随分違いますよね。
K|なので、次は社会派を撮ってみたいという先生のお気持ちはわかる気がします。
M|違う分野だからこそどうやって撮ろうかって考えますよね。自分のところから少し離れてみると、第三者という目、つまり『自分の作品を客観的に見る力』をもっていないと作家としてはやっていけないですよね。どんどん自分の感性というものを突き詰めていけばいい。
K|それは今回選ぶときの基準にもなっているのですか?
M|そうですね。客観視ができているか、それをある程度クリアしていないと選べないです。
K|今回のコンテストを開催する際にいただいた応募者へのメッセージの中で『地球と向合うことで生まれる作品を期待したい』という一文がありましたが、それに少しでも引っ掛かる作品はありましたか?
M|地球というのは、自然はもちろん、地球の中で生きている人間の営みも同じように地球と考えています。抽象的なんですけど、『自分の心の中の旅』というのをテーマにした写真がもっとあったらよかったんじゃないかなと思いますね。今回そういう作品は無かったように思います。
K|そうですね。実は、第一回の旅写真展からずっと『その人なりの心の中が映し出されている写真が見たい』と思ってやってきていますが、内面が伝わってくるような写真っていうのは結構難しい気がします。
K|この方はすごい色々なところを旅しているんですね。22歳で60カ国は中々できる経験ではないですよね。
M|こんな経験を学生時代にするというのは素晴らしいですよね。それに、よく光を観察できている。これからに期待したいね。
K|ただ、この方も『自分の心と向き合って』というよりは、世界の美しい風景に感動してシャッターを切っているんだろうなぁと思います。それを思うと、これからたくさん撮り続けていく中で、更に作品に深みが出てくるような気がします。
K|この作品は先生も私も全ての選考段階で選んでます。いわゆるパーフェクトの作品ですね。何かが劇的に良いわけではないけれど、なんだか良いという感じがします。
M|そうそう。これは南半球の砂漠の花ですよね。自然の写真っていうのはやっぱりいいですよ。
K|なぜでしょう、奇をてらったわけではないのに。それでも他とは違う・・・何か不思議な魅力をもった作品群です。素晴らしいですね。後から応募票を見て分かったことですが、シフトレンズがメインのレンズというのも興味深いです。かなり専門的な機材なので。
M|これはサイズこそ小さいけれど中々感性があるね。
K|そうですね。プリントを大きくしてもいいと思います。1年8ヶ月間のバックパッカーだったときの写真と書いてあるので、他にも見せてもらったらもっと良い写真も出てくるかもしれません。自分で選ぶのって難しいと思うんですよね。
M|そうだね。セレクトは難しいよね。
K|この方は自分の葛藤と向き合って撮っているんじゃないかと思いました。全部夜中に撮られているんですよね。
M|そうだね。ひとつテーマがあるのは良いね。
K|この写真は技術が素晴らしいですよね。
M|うん。これは魚眼で撮っているのかな。なかなか撮れないね。
K|一枚一枚時間をかけないと撮れない作品ですね。真摯に自然と向き合った結果が写っている。このことこそ今の撮っては消えていくデジタルの時代に必要なことなのかもしれません。
K|この方はこの4枚が美しくまとまっているなぁと感じました。撮れそうで撮れない写真ですよね。
M|それぞれ個性があっていいですよね。
K|全部違う魅力がありますよね。
M|この方は一点だけモノクロームの写真があるんだけど、それが象徴的だね。このモノクロームが現在でそれ以外が過去の風景を表現しているのかなと、私は好意的に受け取ったんですけど、どうでしょう? 撮影された時間は同じだと思うんだけど、表現として一点だけ変えたのかなと。
K|言われてみるとそうかもしれないですね。お会いしたら聞いてみます。この方は被写体との距離感がいいですね。
K|先生はモノクロームからカラー、そしてまたモノクロームへと移られている印象がありますが、モノクロームでなければ表現できないものというのはありますか?
M|モノクロームはずっと撮り続けています。モノクロームって省略していくことなんですよね。省略していくことで、写真のテーマがよりはっきりしてきます。
K|たしかにそうですね。色が無くなれば、自ずと構図と被写体で表現していかなければいけないですよね。
M|これはモノクロームで表現したら美しいだろうね。
K|そうですね。
K|作品を作られるとき、計画、撮影、選定、発表という順序があると思います。多くの人が撮影のみで満足してしまいがちだと思うのですが、先生から皆さんにアドバイスをいただけないでしょうか。
M|僕も最初はよくわからなかった。だけど、写真だけに限らず音楽や文章など色々なジャンルで良い作品にとにかくたくさん触れることが大切ですよね。あとは志を高くもつこと。妥協しないこと。
K|写真だけではなく様々な良いものに触れることが作品作りには大切ですね。
M|タイミングが合えば展示に来て直接みなさんとお話できればと思います。
K|嬉しいです!本日は長時間ありがとうございました。
【審査員プロフィール】
■水越武|TAKESHI MIZUKOSHI
幼い頃から山の自然に親しみ、20代の半ば、ナチュラリスト・田淵行男の写真集「高山蝶」に感銘をうけ、写真の道に進んだ。北アルプス、南アルプス、ヒマラヤなど、国内外の高峰から日本の原生林、熱帯雨林などの撮影において高い評価を受ける。現在は「生態系からみた地球」というテーマに基づき、アフリカ、ボルネオ、アラスカ、パタゴニアなど、壮大な自然の営みを地球規模で撮り続けている。1938年愛知県生まれ。東京農業大学林学科中退後、1965年から田淵行男氏に師事。1971年に発表した「穂高」のシリーズで厳然たる山の神髄を示し、山岳写真界に水越武の名を刻む。現在は温暖化で後退が進む世界各地の氷河、山の博物誌などのテーマに取り組んでいる。主な受賞歴に土門拳賞、日本写真協会年度賞、講談社出版文化賞、芸術選奨文部科学大臣賞などがある。
■中村風詩人|KAZASHITO NAKAMURA
世界一周、南太平洋諸国一周、東南アジア一周、オセアニア一周、欧州一周、などを旅して2018年現在80カ国以上を撮影。代表作に世界3周分の海の風景をおさめた写真集『ONE OCEAN』(丸善出版)を出版。海の風景は広島県の切手にも採用。2018年4月に著書『小笠原のすべて』(JTBパブリッシング)を上梓。同出版記念公演は300人を動員、展示は銀座・名古屋・大阪キヤノンギャラリーから宇都宮東武百貨店・高崎高島屋・水戸京成百貨店・仙台メディアテークなど全国を巡回し、来場者数は延べ10万人を越え新聞で14段の特集を組まれるなど話題となった。その後は度々小笠原へのフォトツアーを開催している。2018年末には『本能のデザイン』(実業之日本社)、2019年に世界一周写真集『OCEAN MEMORIES』(私家版)を出版している。
水越武先生 写真集発売情報
『日本アルプスのライチョウ』
撮影・文:水越武
解説:中村浩志(信州大学名誉教授)
B4変形判(257×240mm)
ハードカバー/フルカラー120頁
2020年3月30日発売
定価:本体7,000円(税別)