販売目標は91冊。それが明確になる作り方を提案しています。作家さんもギャラリーも赤字にならない写真集の作り方を目指しています
自費出版のキホン
写真集に関わらず「書籍を出版する」というのは並大抵なことではありません。人によってはそれに生涯をかけるほどの苦労と熱意をかけています。何でも簡単にできる世の中になったことで、フォトブックをオーダーする感覚で自費出版をしようと思った方がいたらそれは少し考えが甘いと思います。「出版とは編纂をすること、作品集を世に出すとは自分自身を纏めること」に他なりません。もし作品集の出版をお考えでしたら、足がかりに写真展を開くことを考え、展示を通じて考えをまとめ、展覧者と会うことで意見を受け取りフィードバックをして作品を磨き上げていくことこそ必要だと感じています。それは違った見方をすれば「作品はギャラリーに纏めれば個展、本に纏めれば作品集」という見方が出来るかもしれません。自費出版のススメ、それは基本的に個展を行う方に送りたいメッセージです。
まだまだですが、これまで20冊程度の写真集の編纂に関わってきました。自費出版に関しては様々な意見があると思いますが、弊社としての写真集、作品集、著書についての考え方をまとめています。※自費出版のススメに関しては作品の点数、表現の幅などについて、こちらのZINE(ジン)のページでもご説明をしています。
出版する会社選びの基準
写真集出版の理想は大手出版社、または中小でもアート系出版から出すのがベストだと考えています。大手出版の強みは流通、アート出版は作家性の向上です。それ以外の少々怪しげなウェブ中心の自費出版社は控えたほうがベターです。
大手はお金かコネクションか経歴が必要でまずまず厳しいのが現状です。最も手っ取り早いのは芸能人を撮影させてもらって出すような代理店のやり方か、ネットで話題になって本にまとめなおす、あるいは可愛い動物などのもともと需要がある被写体をテーマに、などが多いです。
アート系では蒼穹社、赤々舎、青幻社、冬青社など、あとはsteidlなど海外出版社もあります。驚くかもしれませんが、これらはほぼ自費出版です。※ちなみに大手でも写真集の5割以上は実質的な自費出版です。(実質的にという言葉には、印税分以上の著書買い取り契約、初版は無償で増版分からの印税支払、写真自体の著作権買取契約、などなど方法が様々あります)。ご存じ大手は自由に作れない反面、売れ筋のものに近づいた作りになること、ロットが多いなどメリットがあります。アート系は逆に自由に物作りができ、小部数のため変わった造作や、少なくとも内容には自分の個性を出せます。
自費出版の相場
弊社でも中小出版社の登録をしています。一般的には写真集は自費出版だと結構な額を皆さん業界では請求しています。大手は300〜くらい、中小で100〜200くらいです。ぜひ「自費出版」で検索してみて下さい。
大手は流通と人件費でお金がかかるのは分かりますが、印刷のみでしたら中小の200はなかなかの額です。様々なパンフレットや冊子、書籍を手がけて原価を見ているためそう思います。逆に大手がアンダー100でどうですか、と言ってきたら部数にもよりますがかなり協賛してくれている条件です。
自費出版は「情報発信」という本そのもののあり方ではなく「自己満足」の世界を出ないため、善し悪しは判断どころが難しいのですが、まずはその響きの印象はよくありません。ですが、少なくとも作家として一冊の著書があるかないかを比べたら、合った方が良い、と私は思います。
大切なのは書籍自体の品質
書店流通をさせない写真集を「流通させていない本」=私家版写真集と言ったりします。実はマッギンリーやアラーキーなど大御所も私家版の一冊から始まっています。この一冊が無意味となるか、それともその後の経歴の足がかりとなるかはもちろんそこから続けるの活動次第ですが、どちらにしても書籍自体のクオリティが必要です。
多くの乱立する中小出版社で、アート系とそのほかを線引きするのはおそらく「その書籍のクオリティ」に尽きると思います。用紙の選び方や印刷クオリティ(印刷線数)を良好なものにするにはそれなりの投資額が必要ですが、価格を抑えながら素晴らしいものを造ることを補うのは、写真の見る目、作品を活かすデザインの技術、プラスアルファの価値を加える手作業の有無などの方法もあると思っています。
新たな自費出版への考え方
作家に費用負担がない自費出版
弊社では、作家の持ち出す費用を最小限に抑えた上で芸術作品を生み出せないだろうか、というボーダーを考えました。そのため作り始める前に、原価+制作料を明確にお伝えしています。弊社も作ったけど赤字だった、あるいは作家さん側も赤字だった、あるいは弊社だけ、作家さんだけが得をした。ということが極力ないようになるボーダーを考えています。それは作家さんの作品、力量、魅力などによって変わってきますが、多くの自費出版をPRしている中小出版はまず利益のみの最優先と考えて間違いありませんので、それに比べると共に作品作りをするパートナーとしては他に類を見ない作り方をしていると自負しています。
ひとつ価格について注意したいのが「金額が人によって変わってしまう」ということです。その言葉だけでは不公平感がありますが、単純に費用となる「原価+制作料」の『原価』の部分がその書籍の仕様で金額が変わってしまうからです。その原価には「部数・ページ数・紙質・カバーの有無などの仕様」により変動しています。またそれに伴う制作料もカバーの有る無しで変わるのも想像いただけると思います。また弊社では作品性も考慮して、その作品のために割ける時間、さらには作家さんの作品への力の入れよう、決断力など様々な要素を見ながら制作料という形で配分を決めなくてはなりません。
費用負担なしの考え方
【初期費用】
原価:部数、ページ数、仕様などから計算します
制作料:仕様に合わせて作家さんの力量や決断力、経験から見積もります
こちらの二点を前もっていただく形になります。
決定後の変更もあり得ますが基本的なレールはこの時点で敷けます
こうした結果、完成した写真集を販売していきます。ここで明確にお伝えできるのは「目標販売部数」です。当初より「販売できそうな部数」を制作予定の部数としてお伝えし、これから控えている展示会や写真そのものの魅力、知名度などからこの「部数」を割り出します。当然ですが、これに定価をかければ「売上」になります。その売り上げから初期費用「原価+制作料」を引いたものが作家さんにお返しできる利益になります。ざっくりとした数字で一例を表すと例えば下記のような例になります。
【目標設定概算】
初期費用見積:450,000円(印刷代25万+制作料20万)
制作部数:120冊(作家分受取部数)
定価:4500円+税(税込4,950円)
損益分岐部数:91冊
全冊販売時売上:594,000円
作家さん手元残:144,000円
作品と作家さんから自然と部数が決まります
このケースの場合は弊社から作家さんにお伝えする大きなことはひとつ「最低目標部数は91冊になります」という目標設定です。そしてこの部数を売り切るためには「9日間の展示会で売り切るには日に10冊ずつは買い手が必要です」と合わせてお伝えできます。これ以降のものに関してはSNSなどで直販を中心に売り切る必要があり、それなりに高いハードルにも聞こえます。
ですが、写真集という商品は「10年かけて売り切るもの」という業界の言葉があるほど在庫の動きが難しい部類の書籍です。普通の書籍がスタートダッシュが最も大事、まずは3ヶ月で再版を目指そう。というのとは真逆をゆくスタイルなのです。それを思うと例えば10年で3回展示を開けば無名作家でも売り切ることはそう難しくないようにも思えます。これについては人それぞれですが、長いスパンでの目標設定=部数を多めに制作する、というのも一手です。
個展を行うこと、その展示でのコンセプトさえしっかりしていて見応えがあれば本に纏める、という考え方をしています。展示会で売ることが出来るのが強み。手数料もかからずにそのまま還元できることで目標設定が明確です。
展示を通じた直販の考え方
弊社の販路はまず展示です。会場では前もって製作費用をいただいているものに関しては基本的に手数料を頂戴いたしませんので見込みの計算が可能です。他にはamazonや開拓できる路面店もあります。が、amazonや他店ですと買取価格が7掛程度+送料などがかかりますのでなかなか利益がでません。これを単純な広告塔と思うのであればどんどん出品していくことには大きな意味があります。一方で、実質的に元を取ろうと思うと他社の手に頼らない(手数料のかからない)手売りになります。
ちなみに弊社制作書籍はISBNというコードを取ってJISに申請済みの流通可能書籍です。弊社で全国に流通もさせられるのですが初期費用が大きくなり乗りにくい話になり、また現状のやり方だと流通させた多くは返本されてしまう恐れが高いです。基本的に書店にまわった書籍は売れなかった場合は、2年で返品されて戻ってきます。知名度にもよりますが、返品は大手の場合でも書籍を綺麗に磨き直してカバーをかけ直して再出荷、という流れですが、駆け出しの作家さんにとっては再流通へのコストはあまりお勧めできません。
期間はどのくらい必要か
最後に製作にあたってのスケジュール例です。基本的には展示会を期日に設定すると下記のような流れでおおよそ4ヶ月程度見ていただくとしっかりしたものをお作りいただけます。また適宜お問い合わせいただければ写真集のページの作り方、順序の組み方、校正の仕方などをお伝えしていくことも可能です。
- 初日:打ち合わせ構想ヒアリング大まかな順序決定します
- 01〜30日目:写真・序文などをご送付いただきます
- 30〜60日目:レイアウト反映&用紙など装丁ご提案
- 60〜75日目:初校出校(文章校閲)
- 75〜90日目:二校念校
- 90〜100日目:入稿
- 100〜120日目:納品
- 120日目〜:展示会販売
本を造る=作家性を見つめ直すこと
作品集が出来るまでに数回お会いしています。ウェブのみでの完結ではなく、作家さんのご要望を伺い、その中で表現できる最善のものをご提案し、また作品性が深まり、自身との向き合うきっかけをお渡しできるように心がけています。「本を造っていく」という工程そのものが著者の経験となりますよう願っています。
写真集はそのまま作家の経歴でありポートフォリオとなります。そのためにもまずは一歩目としてしっかりしたものを制作してみる、というのは遅かれ早かれ考えることになると思います。弊社がその一助となれるようであれば是非ご相談くださいませ。
大変参考になりました。
香港のあるカメラマン+モデルの集団の写真集を企画しております。
ご相談できれば幸いです。
以前、写真集制作でお世話になりました。
とても丁寧に進めてくださり、大変感謝しております。
ありがとうございました。
また作品をまとめる際にはお声がけさせていただきます。